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夜泣き類似疾患

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病気に近い夜泣き

2015-07-17作成
2015-07-17Internet公開
2023-01-15 change address

ここまで子供が泣く原因や、夜泣きについて書いてきましたが、それらの対応策を完璧に行ってもまだ残る夜泣きは、どう考えたらよいのでしょうか。

病気としての夜泣きをあまり強調すると、親の不安を募らせるだけですので、あまり書かないようにしてきましたが、徐々に認知されてきていますので、このあたりでまとめてみたいと思います。

基本、正常の夜泣きも、病気に近い夜泣きも起こっているメカニズムは良く似ています。ですから、たとえ、その夜泣きが病気だとしても、今まで述べてきた夜泣き対策をしっかり行っておかないと、病気の夜泣きに上乗せされて起こってきますので、ややこしくなります。ですから、いきなり病気と決めつけず、前述の夜泣き対策はしっかりおこなっておいてください。

以下に各論を書いていきたいと思います。もっと稀なものもありますが、基本このHPは育児書としての内容に留めたいと思いますので、詳細は、機会があれば書きます。

根本的に薬で治すという事は、出来ないものも存在しますが、自然治癒していく事が多く、睡眠薬や抗てんかん薬、漢方薬、鉄剤の投与で簡単に消えるものもあります。

目次

睡眠時随伴症(パラソムニア)

主に入眠初期60-90分に起こる脳細胞の興奮状態です。ノンレム期が多いですが、レム期に起こるものも存在します。レム期に起こる場合は、夢の記憶などが残っています。

夜泣き対策を十分に行っているにも関わらず、毎晩起こる場合に疑います。
2歳頃から生じ、5歳頃に消えるとされていますが、15歳で錯乱性覚醒障害の子どもがいましたので、続く場合もあるようですが、後述する睡眠関連癲癇との鑑別も必要になる場合もあります。
両親や親類に同様の症状を持っている人がいるケースが多いです。

また、2歳頃まで正常にぐっすり寝ていて突然この病気になる子供もいますが、生後数か月から、ずっと、夜泣きがあって、続いてこの病気に繋がる人もいます。

錯乱性覚醒障害(発生率:17%)

とにかく、泣き叫んだり、暴れて暴力的になりますが、その時の記憶はありません。

夜驚症(発生率:1-6%)

同様に泣き叫びますが、基本は、強い恐怖を示し、悲鳴、啼泣、驚愕、自律神経の興奮(多呼吸、頻脈、発汗、散瞳)を示すところが違います。より、扁桃体の興奮が強く出現しています。その時の記憶はありません。

睡眠時遊行症(発生率:17%)

そこらじゅう歩き回ります。

悪夢障害

入眠後後半から最後の1/3程度に起こります。おびえていて泣く事もありますが、発声、自律神経症状は少なく、運動症状もまれで、基本はすぐ覚醒しますし、悪夢の状況を良く覚えています。

睡眠関連てんかん

痙攣などが起これば、わかりやすいですが、パラソムニアに良く似ているものもあります。続く場合は、脳波検査に紹介しています。
入眠後と寝起きに多く、寝起きに起こるものは、特に疑わしいです。

むずむず足症候群

レストレス・レッグズ症候群としては、成人では有名です。
著者も、昔、酒とたばこを吸っていた頃、ある時からこの病気になり、禁酒・禁煙によって、消失しましたので、気持ち悪さが良くわかります。(成人の場合は、二次性にも出現します。)

とにかく、夕方~夜になると、下腿がこそばゆくなって、じっとしていられません。著者の場合は、眠くないのに、夜の9時頃になると、決まって出現しました。最初子供にこの病気は無いと思ってましたが、現にその症状で来院された子供は3歳児で多動のため保健所でフォローも受けていました。

ドーパミン神経系の異常(不足)による入眠時の止まらない足の動きで、そのために眠れません。喫煙者のムズムズ脚症状が禁煙で改善するのも、ドーパミンレセプター機能異常が禁煙で改善するからです。

子供は以下のような症状を訴え、足をバタバタします。酷いと泣く場合があります。また、ADHDの合併も多いとされています。脳内鉄欠乏が原因の場合は、鉄剤投与で改善する場合があります。
しかし、眠れているようなら、自然治癒するので、不投薬で経過観察します。

症状表現のしかた

足が気持ち悪い、虫が這っているよう、こそばゆい、熱い、足が痛い、誰かがさわっている、棘が刺さっているよう

就寝時の行動

足を布団やベッド柵にこすりつける、足のマッサージをせがむ、絶えず動かす、足を掻く、足をさわっている、足が痛いと泣き続ける、不機嫌が続く

※)いわゆる成長痛とムズムズ脚症候群

鉄欠乏(貧血の有無は問わない)

上記、むずむず脚症候群と同様の機序ですが、脳内貯蓄鉄は、ドパミン作動性ニューロンの働きに大きくかかわっています。鉄欠乏の症状がむずむず脚症候群として表れる子供と、夜泣きやイライラ、泣き入りひきつけ、鬱症状として表れる子供がいると言われています。

乳幼児の栄養と鉄欠乏

母乳中の鉄分は、日本で市販されている人工乳中の鉄分の1/18と少なく、母乳中の鉄吸収量が人工乳の5倍あるという事を鑑みても、完全母乳栄養児の鉄欠乏のリスクは非常に高いと考えられています。

 著者の経験では、鉄含有量の多い食材(貝類[貝柱以外の部位]や牛肉や牛レバー、鳥レバー)を嫌い食べない子供(最近は離乳食にレバーペーストを勧める風潮も減っており)には、その後の鉄補充のチャンスが少なく、鉄欠乏のリスクが高いと考えており、そういった子供の爪の変形や菲薄化、割れなどを伴っている夜泣きや疳積は鉄欠乏も疑います。

治療

ただでさえ泣きやすい子供の採血は、心が痛みますが、血液検査で血中フェリチン値が女児で30以下、男児で50以下で症状を認める場合は鉄剤の服用を試してみる事も有用です。

 医療用鉄剤は吸収が悪く、嘔気や、便秘などの副作用が多く、どちらかというと、サプリメントで売られているヘム鉄の方が良いとされていますが、子供用のものは、見当たりませんので、まずは、医療機関で相談をお勧めします。

※離乳食には牛レバーペーストがお勧めです。良く言われているほうれん草の鉄補充量は少なく(1食当たりの摂取量が少なく、無機鉄のため吸収が悪い)、また最近のひじきには、ほとんど鉄が含まれていません(鉄窯でゆでていないため)。鉄鍋による調理も良いです。

ADHD、自閉症スペクトラム障害

セロトニントランスポーターの不足に伴い、(扁桃体活動を抑制する)抗不安脳内物質セロトニンが不足し、扁桃体過活動を認めやすく、セロトニンを原料に作られるメラトニンも不足するため、概日リズム障害を伴いやすく、夜泣きの原因となります。ただ、前述の夜泣き対処を十分に行えば、かなり夜泣きは減るはずです。それでも強く残る場合は、漢方薬などで対応します。2020年にはメラトニンの小児保険適応が取れましたのでメラトニン投与もある程度有用です。

ADHDの診断は小学校入学後から可能となりますし、自閉症の診断は酷い人で3歳から、軽い人は、中学生くらいまで診断できませんので、夜泣きが酷いから、これらの病気を小さいうちから考えたところで、なんの得にもなりませんので、診断可能年齢となるまでは、取り敢えず、前述の夜泣き対策に集中しておきましょう。

腸内細菌とセロトニン

最近、腸内細菌叢がセロトニンの調節を行っている事が示唆されてきました。乳幼児の夜泣きに使用するロイテリ菌が、自閉症の症状を緩和するという研究結果も出てきております。

以下、関連リンクつけときます。今後注目されます。


2023/03/09 追記コラム:乳児期からすでに不安症は存在している

 以前から考えていたことですが、裏付ける論文も最近でてきたので、現時点での院長の見解を述べてみたいと思います。
 発達障害の診療を行ってから20年以上が経ちました。乳児期の夜泣きから成人までを追って感じるのは、不安障害群で診療していて過去にさかのぼると、パラソムニアや頑固な夜泣きを伴っていた方が少なからずいて、逆に夜泣きで診察していた方が小学校高学年で不安障害群のため再度受診されたりしているのを見ると、頑固な夜泣きや睡眠時随伴症は不安症の基盤なのではないかと考えるようになってきました。

夜泣きする子にADHDが多いという報告はありますが、同時にADHDに不安症が合併しやすいとも言われています。私個人の考えは、夜泣きはADHDというより、不安症の種ではないかと考えています。不安症は40%ほど遺伝するともいわれており、夜泣きする子の親に不安症が多いなとも感じています。


不安症の発生数は、5歳付近でいったんピークとなり、その後徐々に減少したあと、17歳付近で再び増加します。この波と同じように、夜泣きが見られた子供が、分離不安や特定の恐怖(暗闇や虫が怖いなど)、社交不安などに進展したあと、小学校入学までに徐々に改善し、普通に小学校低学年を過ごした後、4年生付近で再び社交不安などの不安症が出現してくることを経験します。

不安症は先天的なものだけなのかと考えたこともありましたが、一卵性双生児の不安症の程度に違いがでてくるのを経験したとき、環境要因もかなり影響しているなと感じました。一卵性双生児は、同じ家族、同じ学校、同じクラスに育つのに、どんな環境要因の違いがあるのかと探ったとき、一卵性双生児の性格がみな少しずつ違うことに気づきました。彼らは、オリジナリティを出そうと、片方とは違う行動を無意識にとっているようで、その行動のとり方の違いで、受けるストレスに違いが生じて、結果的に不安症の程度に違いが出てくるのかと思うようになりました。

 夜泣きが不安症の初期症状であるとすると、その不安は環境要素に大きく影響を受けます。
とすると、きつい夜泣きを認めた子には、不安症に対応した子育てをすることで、将来の不安症の悪化を軽減できるのかもしれません。

 不安症に対応した子育てとは、ポジティブフィードバックを多めに与えることです。
 不安症を持つ親は、「そんなことしたら、こんな失敗するよ」などと先行き不安を連想させる言葉がけが多かったり、失敗した結果を批判することが多くなります。
 そうなると、不安症をもつ子供は成功したことをすぐに忘れ、失敗した結果ばかりを記憶に残しがちになります。そしてその原因を自分の能力そのものに振り向け、変えようがない自分の能力を卑下し、結果を恐れて逃げるようになります。
 そんな子供には、できるだけうまくできたことを言葉で褒め、失敗した結果を指摘するのではなく、失敗した理由としてその戦略そのものを具体的に指摘することで、「戦略を変更すれば成功できるかもしれない」という希望を持たせ、結果を恐れて逃げずにまたやってみようと楽観的に考えさせるような育て方が望ましいと考えています。

不安症の発症年齢は、二峰性を描きます。

最初のピークは小学校入学前で、その次は、高校入学時です。

 小学校入学時に不安症と判断した患者さんの不安が入学後に一旦低下することは、よく見られますが、思春期にもう一度襲ってくる場合について考えておく必要があります。

ちなみに不登校の発生は小学校4年生(11歳頃)からが一般的です。

当院で2022年に調査できた幼児期(小学校入学直前)不安スケール値(PAS)は、乳児期(4か月~12か月まで)の不眠を認めた群の方が優位に高い傾向がみられました。(いずれの群も自閉症,ADHDの含有率に差がありませんし、男女差もないので、不安に関係するといわれる因子(発達障害や性差)に差がなくても、乳児期不眠を認めた群は不安症を合併しやすい傾向が見られました。)

これは、発達障害とは関係なく、不安になりやすい遺伝子がそもそも存在しており、乳児期不眠と関係している可能性を示唆していると考えています。

さらに、乳児期睡眠困難の程度を母親がどれくらい困ったかで数値化してみますと、困り度の程度に沿って、幼児期(小学校入学直前)不安スケールが高くなっている傾向が見られました。

乳児期不眠が、母親の手を焼きすぎる傾向があるほど、幼児期の児の不安症の程度が強くなっており、不安症になりやすい性質が乳児期不眠に現れていると考えられます。

そのほか、不安と関連する因子としてエビデンスがあるものとしては、感覚過敏がありますが、生得的な感覚過敏が、幼児期不安係数(PAS)合計値と正の相関がみられました。

感覚別では、触覚過敏が不安と強い関係が見られていました。

このように、乳児期の睡眠困難や、生得的な感覚過敏の強さは、不安症の体質を表している可能性が高く、これらを認めた発達障害児は、(不安症体質+発達障害という事になるため)思春期に不安が増悪する可能性があり、それまでの学校生活や家庭生活で注意して観察すると同時に、育て方についてあらかじめ心理教育しておく必要があると思われました。

 生後2か月の時点で、摂食、睡眠、または過度の泣き声の問題を持つ子供は、母体のメンタルヘルスの問題や親子関係の問題とは無関係に、乳児期後期にも同様の問題を持っているリスクが3倍も存在する。
 これらの問題 が生後 2 か月を超えて見られている乳児は、臨床および地域環境において特別な注意を払う必要があることを示しています

Olsen AL, Ammitzbøll J, Olsen EM, Skovgaard AM. Problems of feeding, sleeping and excessive crying in infancy: a general population study. Arch Dis Child. 2019 Nov;104(11):1034-1041. doi: 10.1136/archdischild-2019-316851. Epub 2019 Jul 3. PMID: 31270094.

生後 2 年目の行動抑制は、思春期以降の幼少期、思春期、さらには成人期における内気、社交不安、うつ病の仮説上の予測因子ですが、生後4か月でなじみのない新奇刺激に対して泣く乳児は、生後2年目の行動抑制の有意な予測因子であることを示しています。
 赤ちゃんの新奇刺激に対して泣くことを評価するだけで、非常に若い年齢で気質的な不安体質を測定できる可能性を示唆しています。
※)行動抑制:新しい人、物、状況に対して恐怖心や不安感を示し、それらを避ける傾向があることを指します。例えば、新しい場所に行くことや新しい人に話しかけること、または見知らぬ人に対する接触や近づき方に対して、過剰に慎重になるなど。

Infant predictors of behavioural inhibition
E. MoehlerJ. Kagan, +4 authors
 F. Resch
Published 1 March 2008
Psychology
British Journal of Development Psychology
DOI:10.1348/026151007X206767

一卵性双生児研究で片方だけがうつ病と診断された患者に影響した環境要素として識別されたもの。

1)母親の保護性
2)対立する親子関係。
3)楽観性が低い
4)現在のストレスフルなライフイベント。
5)経済的困難とその既往
6)恐怖症
7)ニコチン依存症の病歴。
8)離婚。
クラスター分析により、示唆された、大うつ病への3つの「環境パスウェイ」
(1)幼少期の脆弱性と不安、(2)行動的であるが、やる気をなくす、(3)対人関係の困難。

Kendler KS, Gardner CO. Monozygotic twins discordant for major depression: a preliminary exploration of the role of environmental experiences in the aetiology and course of illness. Psychol Med. 2001 Apr;31(3):411-23. doi: 10.1017/s0033291701003622. PMID: 11305849.

睡眠時無呼吸と多動と不眠

夜泣きとはあまり関連せず、夜間の酷いイビキを伴う、無呼吸が3呼吸分の時間を越えて続いている児で、日中の多動傾向、朝の寝起きの悪さなどが合併している場合は、閉塞性無呼吸による睡眠不足から前頭葉機能の低下に伴う疳積や多動の原因と診断される場合があります。

この診断は極めて難しく、一般的な無呼吸検査で無呼吸インデックスが軽度の高値(AHI>1程度)でも多動の原因になっている場合があるそうです。詳しくは、睡眠に詳しい小児科に相談されることをお勧めします。

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